岳紫陽花とガクガク(2004)             

 

 ガサ、ガサガサ、30m程先の対岸で音がし、顔を上げると木が揺れている。違う、カモシカではない。異様な雰囲気に体は固まり息をひそめていると降りてきた。真黒で自分の2倍はある大きな体が。頼む、こっちを向かないでくれ、ゆっくりと川を渡り始めた。真っ直ぐ藪に入ってくれ、頼む・・・・・ ちょうど右カーブの場所で先は見えないが、とにかく視界から居なくなった。一度もこちらを見なかった。 今月の上旬に行く予定が遅れ、24日に漸く長棟の本流に足を踏み入れての出来事。2時に出発、6時過ぎにいつもの場所である薬谷との合流付近の河原に到着。ちょうどアジサイが満開時期で途中の林道脇にはまばゆい程のブルーが咲き乱れていた。林道から降りる際に、以前見た杉林の中の事が頭をよぎったが、この時期なら新緑の中よりもこちらが安全と思い駆け下りた。台風の後とはいえ北陸は期待した程雨は降らず、また通過後二日目で水量は極めて少なかった。5月のような大釣りは無理でも十分に楽しめるはずと釣り始める。竿を出すが暫くアタリなし。左から沢が一本流れ込んだ辺りから漸く釣れ始めた、しかしなんとも小振り。最初の切り立った箇所の瀬を通り左カーブになる淵で良型が出て期待をもたせたくれる。対岸に渡りその先のいかにも出そうな緩やかな流れの手前で根がかり。場を荒らしたくなく引っ張って切ってしまう。石に座り、時間も余裕あるし、もちろん誰も来そうもなく、のんびり仕掛けを作っていたその時に冒頭のことが、その場で少しじっとしていたが怖くなり先へ進むのは断念。まだ時間は7時10分、ここまで来て引き返して後悔しないか、藪に入ったはずだし静かに通り過ぎてしまえば大丈夫なのでは、しかし恐怖感は去らずその場を後に。

 

動かぬ岩魚
動かぬ岩魚

奥山まで釣り下がるが小物のみ。陽は昇り暑苦しい。奥山に着いたのが9時前。なんとなく落着き下流を釣る事に。整備された点検道を笛を吹きながら下る。30分程下り水辺に近づいたところで降り立つ。あまり釣れそうな気がしなかつたが2投目で一気に持っていかれる。なかなかの良型にほっとする。それなりの淵だったので再度振り込むと根がかり、暑いし既に1本上げた後だったので腰まで浸かり足で底石を動かそうとした時、何と水中の目印に食いつこうと岩魚がグルグル回っているではないか、目の前で、目印の少し上を手で掴んでいるのに、何とも不思議な光景であった。釣るには毛鉤かな等と思いつつもちゃんとミミズにも食いついてくれた。思った以上に釣れすっかりいい気分になりプシュッと1本昼飯に。うとうとしてしまう。先が短い事もあり1時間ほど休んでしまう。その後はもっと凄い光景が待っていた。水量は更に減り流れはほとんど止まった状態。そこには数匹の岩魚が行ったり来たり、そんな状態にもかかわらず餌を落とすと食いつくのだ。しかもキープサイズが。ゆっくりと下流に引き寄せ上げたあと再度餌を落とすとまた食いつく。さすがに2匹で止めた。その後もそんなところが続いた。圧巻は10数匹が群れていて至近距離に立っても気にもせずゆうゆうとしていたポイント(?)、その隣に幅2m位(深さ50cm)の溜まりがあり覗くとやはり2匹泳いでいる、写真を撮ろうと水面1m程に近づいてもゆうゆうとしている。もちろんシャッターを切ってもだ。型が良さそうなので今度は餌をおとしてみた。すぐに食いつき静かに寄せて引き上げると尺を超えていたが隣の深みにリリース。もう1匹はまだそこにいる。止めた。これは釣りではない。もう10数年経つだろうか、安保師匠と前日に核心部を釣り、翌日の昼下がりにこの場所にきて同じ様な光景を見たのは。凄い渓だ長棟は。注意事項をひとつ、この区間は増水時には絶対に入渓不可、渇水の今回でも胸まで浸かって渡った箇所が3ケ所、それと逃げ場がほとんど無し。とは言っても行くのは自分だけか?

可愛い!
可愛い!

林道に戻ると車とバイクが止まっていた。自分が下った後に奥山から上流に行ったのだろう。自転車を取りに行こうと歩き始めると前方に可愛いカモちゃんが、癒された、今日は予定外の出会いが会った為か本当にいとおしく思った。無事記念撮影も。桧峠に戻り満開の岳紫陽花を数株頂戴し峠を後に。福沢の部落の手前では猿が沢山道路で遊んでいた。猿達も可愛く思える、小さくて。やはり強烈だった。渓の中で会ったのは。暫く脳裏から離れそうもない。しかし、でも、やはり、こりずに、行くのだろうか。長棟川へ。