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「そんな軟弱なSSW達のどこが良いのかね」と友人に言われたのは50年前の事でした。確かに米国のそれに比べたら私の大好きな英国のIan Matthews、Ralph Mctell、Gallaher&Lyle等が作り出した唄は硬派とは言い難いものでした。霧がかかったような陰鬱な中にうら寂しさも感じるナイーブな唄を語りかけるように唄う人達。Allan Taylorもそんな一人です。昨年暮れから聴き続けています。Fairport conventionの3Daveが参加した1971年のデビュー作Sometimes」はトラッド・フレーバーなオリジナル曲をギターの弾き語りで。名作とされた「The lady」は英トラッド・バンドサウンドをバックに。米国へ渡っての「The American Album」はナッシュビルとLAの一流ミュージシャンをバックにフォーク&カントリーロック・スタイル。時はSSW全盛期。果たしてヒット曲は生まれたのでしょうか?やはり彼は米国でも泥臭く埃っぽいSSWにはなれませんでした。すぐに帰国し本来の姿に戻り「Cajun Moon」を発表。以降はコンスタントにアルバムを発表しています。ちなみに1st以外は入手出来ずCD化後に入手しました。ヒット曲がなくとも彼を支持するリスナーは多いようですし業界での評価も高かったようです。私が久し振りに彼のアルバムを手にしたのは1984年の「Win Or Lose」でした。これはまいりました。デビュー当時に戻ったような弾き語りと極力抑えたピアノとベースとアコーディオンでのバッキング。彼の声からは甘さが消え去り力強く時には凄みが感じられる反面何かを超越した後の枯淡の味わいも。曲作りはバラッドという表現が一番近い気がします。オリジナル以外のDylan等カバー曲もAllan Taylorの世界に溶け込んでいます。もう何枚か聴いてみたくアマゾンで検索したのですがお目当てのものはほとんど無く中古品で有っても高価で手が出ません。
(2024/1/22)
音楽著述業の小尾隆さんが亡くなりました。4年前からガンを患い闘病生活の中でも精力的にレコード店に通いブログ、SNSで発信されていました。小尾さんの音楽嗜好に共鳴する部分が多々あり書かれた文章を参考にさせていただきました。自我が強く度々他の評論の批判も。数年前、渋谷「ブラックホーク」の総括をされた文章を読んだ時に私の思いとはあまりにかけ離れていてブログにその旨を書いたこともありました。ご冥福をお祈りいたします。
私もパブ・ロックが大好きです。 (2023/10/21)
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今年で88歳を迎えたShirley Collinsが新作を発表しました。私が生まれた1954年にはすでに音楽活動を開始していたそうです。彼女が目指したのは伝承曲を唄い奏でるフォーク・シンガー。母国英国のみではなく米国の伝承音楽を採集に出かけ取り上げていたようです。以来その姿勢は揺るぐことなくこの新作でも伝承曲を唄い続けています。元来、声量が小さく感情の起伏が少ない彼女のヴォーカルはさらに深みを増すと同時に枯淡の味わいを感じさせます。聴き進んでくと突然若々しい声が飛び込んできて驚いたのですが1980年シドニーでのライヴでした。他はThe Lodestar Bandを従えた新録です。ダンス・チューンでのベースラインを聴いててかっての夫Ashley Huchingsを思い出しました。
活動期間のわりに作品が少ない気もします。その一部しか聴いていませんが特に夢中になったのは「 No Roses」と妹Dollyとの「For As Many As Will」です。(2023/8/9)
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このアルバムの存在を知った時は驚きと同時に私が出会った唄が現在も忘れられず唄われていると思わず頬が緩みました。決して万人に受け入れられたものではありませんでしたが英国ではそれなりの人気を保ちデビューから50数年経った現在もステージに立ち唄っている英国で一番好きなバンド「Fairport Convention」。そのF・Cの新作はまさにアッパレです。1970年作の傑作アルバム「Full House」を昨年夏クロップレデイのステージで再現した時のライヴ・アルバム。当初のアルバム全曲に加え同時期のライヴでも有名な「Poor Will And The Jolly Hangman」と「Jenny's Chickens/The Mason's Apron」の2曲を聴く事ができました。そして気になるメンバーは。2016年に亡くなった偉大なフィドラー・Dave Swarbrickを除き当時の顔ぶれなのです。平均年齢は75歳。皆さん同じく年を重ねるわけですが彼等はまったくと言っても良い程にそれを感じさせず楽器を手に唄っています。先ずは一曲目の「Walk Awhile」のイントロであの独特なRichard ThompsonとSimon Nicolのギターに続き無骨さが心地良いコーラス。素晴らしい。Swarbrickに代わる旧知のChris Leslieも一味違うフィドルと唄を聴かせてくれました。特に元気なのはDave MattacksとDave Peggのリズムセクション。名曲「Sloth」の間奏でのベースソロには驚きました。そしてギターとフィドルのせめぎあいを煽るドラムが織りなす緊張感が待っていました。
2011年に1971年作の「Babbacmbe Lee」の再現ライブに続く「Full House」再現ライヴ。10年後にはどんな再現ライヴを聴かせてくれるのでしょう。乞う来日
(2023/6/20)
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予定よりも早く年末に届いたAshley Hutchngsの新作は近年のライヴをまとめたものでした。サイケデリックから古来の表現への移行とでもいうのでしょうか?(2016)、Fairport Conventionの始まり(2017)、1969年のワイト島音楽フェスの中心人物Bob Dylan(2019)、楽園と棘(2022)の4つのコンセプトで構成されています。メンバーは自身と息子のBlair Dunlop、女性SSW・Becky Millsを中心とし、いくつかの曲にはフィドルやマンドリン、リズム・セクションがつきますが大半が弾き語りスタイルでまとめられています。ブリティッシュ・フォークのお手本とも思える趣です。聞き慣れたFirport時代のRichard Thompson作品でSandy Dennyが唄ってた名曲「Crazy Man Michael」。そしてDylanの3曲はもとよりオリジナル曲のメロディーとハーモニーも負けず魅力的です。
60年代後半から音楽活動を開始したAshley Hutchings(78歳)。ベーシスト、プロデューサー、ソングライター。ただただ凄い人です。特にイングランドのモリス・ダンス・チューン関連に関しては唯一無二の存在です。Fairport Convention、Steeleye Span、Morrs On Project、Albion Country Band、Albion dance Band、Albion Band、Etchingham Steam Band、蛇腹奏者John Kirkpatrickとのユニットが思い浮かびましたが、まだまだあります。それぞれに素晴らしいアルバムを制作しています。プロデュース作品も含めると100枚を超える事でしょう。私は4、50枚しか聴いていませんが特に印象深いものを並べてみました。(2023/1/1)
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英国トラッド・フォーク界の頂点に立つMartin Carthy婦人、フィドラーEliza Carthyの母親であるNorma Waterson(82歳)が亡くなりました。兄のMikeと妹のLalとWatersonsでデビューしたのは1966年、その後いろんなユニットに参加しながら50年以上音楽活動を続けて来ました。1996年にリリースされたセルフ・タイトルのアルバムを手にした時は感激しました。先ずは力みのないすべてを超越した如くのシンギング。自身と妹Lalのオリジナルに加え英米のアーティスト作品を取り上げています。夫のMartin、娘のElizaを含めたユニットは素晴らしいバンド・サウンドでサポートしてくれました。
私が彼女の存在を知ったのはLal&Mikeの1972作「Bright Phoebus」でした。全曲が二人のオリジナルですが当時盛んだった米国志向の曲作りではなく英国トラッドに強く根差したものでした。バックはエレクトリック・トラッドを確立させた強者たちがここではアコスティカルに二人の感情を抑えた味わい深いシンギングを支えています。Nomaも参加していました。 (2022/12/16)
親子3人のユニット、Waterson:Carthyも素晴らしいトラッド・アルバムです。
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コタツで絵を描いているとTVから流れてきたのは英国のTen Years Afterの「I'd Love To Change The World」でした。え?なんでこの曲が?50年前位に米国でスマッシュ・ヒットしたこの曲をここ数ヶ月前から私は度々聴いていました。TVを見ると「アムステルダム」という米国映画の挿入歌でした。何か嬉しくなりました。Ten Years Afterと言えばギタリストのAlvin Lee。その早弾きプレイが有名でした。ハード・ブギーにブルース・ロック。後年はアメリカ志向が顕著となりスワンプ風味の魅力を増しました。ところで私は1970年当時「夜明けのない朝」のシングル1枚しか買えませんでした。後年ベストものを1枚手にしました。
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Alvin Leeよりも積極的に好んだのが47歳の若さで亡くなったアイルランドのRory Gallgherです。この人も今年は度々聴いています。また先日古くから友人のメールの中にRoryの事が書かれていました。そんな中で少し振り返ってみました。先ずは没後の2003年に弟のDonalのもとで制作されたコンピレーション「Wheels Within Wheels」。ある意味異色ともいえる全編アコースティックのアルバムです。私は手にして驚きと同時に納得しました。英国のフォーク・トラッド界の重鎮Martin Carthy、Bert Janch
スキッフルの立役者Lonnie Donegan。米国のバンジョー・プレーヤー Bela Fleck他が参加しています。曲もオリジナルに加えRobert Johnson、Bill monroe、Tony Joe Whiteそして有名トラディショナル・ソング。DonalはRoryのルーツ・アルバムを制作したのです。
当然ですがRoryのファンはストラトキャスターを手にひたすら弾きまくるブルース・ロックの世界を堪能しました。私も。特にライヴはエフェクターなしの一本勝負。小指のスライド・バーを激しく滑らせながら絶妙なフィンガリング。効果的なハーモニクス&ミュート。リゾネーターに持ち換えて泥臭く、D-35でフォーク・ブルース。むせび泣くブルース・ハープ。かきむしるが如くに弾きまくるマンドリン。そしてトーキング・スタイルでシャウトするヴォーカルは時にストラトとユニゾンだったりコール&レスポンスだったりと魅力は尽きません。私にとってアイルランドの音楽家と言えば90%以上が伝統音楽を奏でています。一方、時には直接あるいは起因とする唄を唄い続けるベルファストの御大Van morrison。そしてRory Gallgherは決して忘れられません。(2022/11/4)
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毎月、第3月曜の朝8時から札幌の三角山放送局の「愛蘭土を聴く」というラジオ番組があります。札幌を中心に活動するRINKAのフィドラー、小松崎操さんが構成・進行を務めるアイリッシュ音楽を中心とした番組で私にとって貴重な情報を得られ楽しみにしています。今回は2000年代にデビューしたTeadaとC’eという二つのバンドの特集でした。アイリッシュ・アメリカンのC'eは初めて聴きました。バンジョーを加える事で軽快感が増し伝承曲をより現代的に演奏しています。一方Teadaはリリースされた2004年頃に購入していました。こちらは若者ながらオーソドックスに奏でています。番組を聞き終えた後、TeadaのCDを取り出そうと手を伸ばすと隣に有ったのがRandal Bays&Daihi Sprouleでした。すぐに頭に浮かんだメロデイが「Grapefruit Moon」。米国のSSW、Tom Waitsの作品です。「Ol’55」や「San Diego Serenade」程の有名曲ではありませんが1stアルバムに含まれた大好きな1曲です。米国人でベテラン・フィドラーのRandalとAltanのギタリストでもあるDaihi。ジグやリールを軽やかに奏でながら、なんの違和感も感じさせずにたおやかに「Grapefruit moon」を唄っています。そしてラストのタイトル曲「Overland」はDaihiのオリジナルです。このスロー・エアーを聴いているとTom Waitsを取り上げた事を納得しました。Teadaに劣らぬ素晴らしいアルバムです。 (2022/10/18)
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Fairport Convention(F・C)を検索していてこのアルバムを目にしたときは本当に驚きました。2016年に出されてたようです。真っ先に頭に浮かんだのは「Live at the LA Troubadour 1970」です。誰もが認めるF・Cの究極のライブアルバムです。オリジナル曲「Sloth」でのギターとフィドルの緊張感溢れるバトルは今でも忘れられません。しかしギターのRichard Thompsonはバンドを離脱。その翌年フィンランドでのライヴがこのアルバムです。「Angel Delight」発表直後のようで同アルバムから数曲演奏しています。Troubadourに比べその演奏はややラフになり緊張から解放され楽しんでいる様子がうかがえます。何とも嬉しいアルバムに出会いました。彼等は同年、私の愛聴盤「Babbacombe Lee」を制作。唯一のオリジナルメンバーだったSimon Nicolがバンドを離脱し私のもっとも好きなF・Cの絶頂期も終焉を迎えました。新たなメンバーで初来日したのは1974年1月。オイルショック最中の寒い会場で見たF・C。Sandy Denyの予告なしの登場に感激しました。その後S・Nicolが復帰したりメンバーチェンジを繰り返し現在も活動を続けています。そして大好きだったフィドラーDave Swarbrickは2016年にこの世を去ってしまいました。 (2021.12.25)
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とても印象深い馬のジャケットのアルバムを聴きトラッド音楽が気になりいろいろ検索していたらFrankie Armstringの新作を目にしました。懐かしい。評価が高かった1st「Lovely On The Water」はもちろん購入しました。曲の半分は無伴奏で他の曲もコンサルティナ、ホイッスル等の極めてシンプルな伴奏でした。全曲トラディショナル・ソング。Steeley Spanが取り上げ気に入っていたタイトル曲はよく聴いたのですが有名な「The Cruel Mother」での力強くもやや甲高い唄声を理解出来なかった気もします。フェミニストとして社会活動をしながらもコンスタントにアルバム発表していますが私は1stアルバム以降は聴いていませんでした。どこかでサウンドがジャズやワールド・ミュージックに近づいた旨を耳にした(勘違いかも)からかもしれません。今年の新作は猫ジャケ。サンプル音源を聴きこれはと購入しました。素晴らしい出来栄えです。16曲があっというまでした。年齢を重ねた歌声は「The Cruel Mother」の壁を取り去ってくれたのです。トラッド曲に加えて自身を含むオリジナルが大半です。無伴奏はもちろんですがコーラスが加わったり変わらぬシンプルな伴奏。私の好きなMartin Simpsonがギターを弾いていました。そうそう猫も唄っています。
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中川五郎さんのコラムで知った伝承曲をグループ名にした米国の3人組Bonny Light horsemanは昨今珍しく伝承曲やそれらを踏襲したオリジナル曲を唄う若者(40代)達で業界でも高い評価を受けているようです。入手して一番気にかかったのは、どのように唄い演奏しているかでした。クレジットにはリズムセクションにギター、ピアノでフィドルやアコーディオンはありませんでした。
聴き始め私の想像とは違いトラッド音楽独特の古めかさや土臭さはほどんどなく中川五郎さんの指摘とおり60年代の米国モダンフォークを現代化した雰囲気です。とても自然で心地良い唄が聴けました。でも「Bonny Light Horseman」「Black Waterside」「Bright Morning Stars」等聴き馴染んだ曲では当時が懐かしくもなりました。 (2021.9.29)
代り映えのしない私の日常生活の中でスコットランドという地名を耳にする事はほとんどありません。それでも先日ニュースでスコットランドの議会選挙の結果報道をいくつか目にしました。独立派の躍進で独立を問う住民投票への期待が再度たかまっているとの報道でした。そちら方面についての認識を持たぬ私ですがスコットランドの伝承に類する音楽は大好きです。極めて安価なSilly Wizardというスコットランドのトラッド・バンドのCDを入手以来、過去のアルバムを引っ張り出しては楽しんでいます。英国のポップスやロックからFairport Conventionを経てトラッド音楽の世界へ。イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド。それぞれに特徴がありました。スコットランドは同じくケルト圏のアイルランドと共通のパイプ、ハープ、フィドル、ホイッスル、ギター等でジグ、リール、ストラスペイ、パイプチューンを奏でシーシャンテイ(労働歌)等を唄っています。そしてそれらをルーツとした素晴らしいオリジナル曲。70年代に数多くの名作を残したDick GaughnやFisher Family。シェットランド出身のフィドラーAly Bainを擁するBoys Of The Lough、スコティッシュ・バンドの最高峰Battlefild Band。80年にソロデビューしたDougie Macleanは1996年のアルバム「Tribute」で誰もが知るRobert Burnsの名曲「Auld Lang Syne(蛍の光)」を取り上げています。ここに掲載したものはレコード時代に夢中になった宝物です。時は過ぎても表現を変えながらRunrig、Capercallie、Wolftone、Iron Horse、Cliar等がスコティッシュをしっかりと引き継いでいます。私はそれらを聴きながらスコッチ・ウイスキーで夢心地に。 (2021.5.29)
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あまりの安価(新品)につられて購入した2枚のアルバムは大正解でした。一枚はスコットランドのトラッド・バンド「Silly Wizard」で454円。70~80年代に活躍したバンドで何故か私は一枚も持っていませんでした。しかしメンバーのAndy M Stewart(ボーカル、バンジョー、ホイッスル)Jonny Cunningham(フィドル)phil Cunningham(アコーディオン)のソロアルバムは数枚持っています。記憶があいまいですが、同じくスコットランドでよりオーセンティックな「Battleeild Band」に夢中だったからの様な気もします。後年彼らのライブビデオを一本購入しました。アコ、ホイッスル、フィドルでのジグやリールの演奏が凄まじかったのを覚えています。そしてこのベスト・アルバムはスコットランドの北島三郎こと?Andyの唄声に始まりスピード感溢れるジグやリール、スローエアーの名曲「The Pearl」も含まれていました。これ一枚で「Silly Wizerd」堪能できます。 (2021.4.11)
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よほどの事でないと新譜に興味を抱かなくなった私が久し振り手にしたオーストラリア出身のEmma Swiftという女性シンガーのアルバムを購入したのはBob Dylanのカバー集だったからです。なんともストレートなタイトルでしょう。Dylanの傑作「Blonde On Blonde」 「Blood On The Tracks」から各2曲の他に耳なじみの曲3曲。残る1曲に心当たりがなくいろいろ調べたら今年発表されたDylanの新作からで私はまだ耳にしていません。38歳のEmma Swiftについては何もしりませんでしたがオーストラリアではカントリー系のシンガーソングライターとしてかなり有名人のようでオリジナルも聴いてみたいものです。このアルバムは米国のナッシュビルに赴き録音されています。アコースティックギターを中心にリズムセクションとエレクトリックギター。所々にペダルスティールとキーボードが加わったオーソドックスなバンドサウンド。この平凡ながらも落ち着いたサウンドを求めてカントリーのメッカに赴いたのでしょうか?。Emma Swiftはアグレッシブな表現を控え淡々と唄っています。それが心地良いのかDylanのオリジナルバージョンが遠のきゆったりとした気分で8曲を聴き終えました。彼女の個性とは?。この淡々さが彼女の個性かもしれません。
オーストラリアには「ワルチング マチルダ」という古典ともいえる有名曲がありますが私が興味を持ったのは伝統曲を奏でるブッシュ・バンドでした。英国の伝統曲と同じようにジグ、リールやポルカを奏で楽器編成も英国のそれとほとんど同じです。時には英国の伝統曲をも演奏したのでした。今では全く見受けられませんが、英国とは一味異なる朗々とした大陸を思わせるサウンドに70年末から80年初めにかけて夢中になりました。またお隣ニュージーランドを含めて魅力的なシンガーソングライターやフォーク・グループもよく聴きました。ここにアップしたのはすべてアナログ・レコードです。ほとんどCD化されていないようです。もうオーストラリアの若者がブッシュ・バンドで盛り上がるなんて日は来ないのでしょうか。(2020.11.9)
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Tradと呼んだ英国周辺の伝統音楽を若者が唄うのに出会ったのは70年代の初めでした。その手のレコードは取り扱っている店も限られまた高価でした。食べるのも我慢しては一枚、また一枚と。それ等を制作していたのがTopicというレーベルでした。他にはBill Leaderが中心となったTrailerやLeader、やや前衛的なTransatlanticがありましたがリヴァイヴァル・シンガーのEwan MaccollとA.L Lioydを要したTopicが最も充実していた気がします。そのTopicが発足80周年の記念アルバムを発表。その内容ですが過去の膨大なライブラリからのセレクトではなく昨年或いは近年の録音のようです。手にし先ずはOldham Tinkersを見つけ感激、Carthy親子もThompsonもいます。圧巻は亡きMaccollの奥様であるPeggu Seeger(84)、WatersonファミリーのMikeの「Jack Frost」をたおやかさの中に力強さを感じさせる唄い振りで脇を固めるは息子さん?いやお孫さん?のお二人。Billy Braggが謝辞をよせ制作には当然Tony Engleが。素晴らしいアルバムです。Topicさんありがとうございました。沢山の人に愛されているのですね。
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Winwood好きのお宅(あるかしら)に必携の1枚です。彼がこれまで参加したSpencer Davis Group、Traffic、Blind Faith及びソロワークスでの代表曲がぎっしり詰まっています。ハモンド、ギター、ドラム、サックス、フルートとTraffic時代のバンド編成でライブ会場や日時の表記はなくここ数年のライブからセレクトしたものと思われます。Back In The High Life Againでのマンドリン・プレイ。そして弾き語りでのJohn barleycorn。もう何年も行っていませんがWinwoodがもしも来日したら重くなった腰を上げコンサート会場に足を運ばなくては。2017.12.22)
よしだよしこさんのレパートリーに「道端でおぼえた唄」というのがあります。アイルランドの作曲家カロランの「Sheebeg And Sheemore」という曲に彼女が日本語の歌詞を付けたものです。2014年のアルバム「笑って唄って」では札幌の小松崎操さん、星直樹さんもゲスト参加しています。とても有名な曲で数々のアーティストが取り上げアイリッシュのスタンダードとなっています。とてつもなく下手なフィドル(ヴァイオリン)を弾く私の練習曲の一つでもありました。
「Sheebeg And Sheemore」が聴けるアルバムです。作者のT・O’Carolan(1670~1736)はアイルランドの盲目ハープ奏者、作曲家で沢山の素晴らしい曲を残しています。(2017.7.9)
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音楽雑誌を購読しなくなって久しく余程の有名人でもなければ訃報を耳にする事が出来ません。先日CD検索していてTim Hartのアルバムが目に止まり試聴したところ気に入り注文しました。ついでに彼の事を少し調べたら2009年に亡くなって居ました。寂しいですね。後年は体調をくずし療養も兼ねてカナリア諸島の小島に移住しカメラマンとして家族と共に暮らしていたようです。Maddy Prior と二人フォークソングデュオとして音楽活動を開始し70年代にFairport Conventionと双璧をなしたエレクトリック・トラッドバンドSteeleye Spanを結成、数々の名演でトラッド・ファンを魅了してくれました。私にとってSteeleyeは1978年の「Live At Last」が最後なのですがその後も数年は活動していたようです。彼がソロアルバムを作った事は知っていましたがSteeleyeがその音楽性を変えて行くと同時に興味は薄れソロアルバムにも期待できなかったのです。しかし今ここに手にし大変な間違いであったと気づきました。これは2nd(81)&3rd(83)の2in1のようですが内容はほとんど変わりません。童謡ばかりを集めたものでどこかで聞いた事のあるメロディがぎっしり詰まっています。最も有名なのはTwinkle Twinkle Little Star(きらきら星)でSteeley時代でも取り上げていました。サウンドですがモーリス・チューンを基本に素晴らしいトラッドフォークです。フィドル、コンセルティナ、パイプ、フレンチ・ホルン等に加え特筆すべきはいくつかの曲にペダルステールやドブロを加えた点で何とも長閑な趣が。この組み合わせは初めて耳にしました。ヴォーカルはTimとMaddyが大半ですがJohn Kirkpatrickが1曲ソロで。それにしてもTimの声は柔らかくMaddyのエンジェル・ヴォイスと共にうっとりさせてくれます。イーリアン・パイプの名手Davy Spillaneも参加しています。遅ればせながら1stも入手したく思います。
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調べたら1973年でした。静まり返った武道館のステージ中央には真っ赤な座布団(クッション?)が置かれており前にはマイクがポツンと。そして生ギターとハーモニカをぶら下げて来たDonovanが座り唄いだしました。とても静かなコンサート。そんな記憶があります。どうしても忘れられないのが「Hurdy Gurdy Man」を唄った時の事。レコードで聞き慣れ親しんだエレキギターの音が武道館に響き渡った気がしたのです。空耳だったのか。もしかしてエンジニアがサウンド処理の中で効果音として実際流したのかは不明です。この時のコンサートがレコード化されましたが2枚組で高価だったためか買い逃してしまいました。乞うCD化の一枚です。Donovanには素晴らしい曲が沢山ありますが私はいつも「Lalena」に浸ってました。友人は確か「Sand And Foam」がお気に入りだった様な。
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Jeff BeckやRon Woodを迎えたりNashvilleへ赴きアルバムを制作しましたがほとんど聴いていません。また最高傑作とされるメルヘンチックな「HMS」も当時は入手困難で後年CD化されてから聴く事が出来た次第です。彼の活動全般が聴ける2枚組を購入し聴いていたらNashville産の「7ーTease」が気にかかりました。(2015.10)
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やはり買いました。3枚目のCDです。紙ジャケットの紙質は凹凸の有るアナログ仕様ではありませんでしたが以前出されたCDよりも少し大きめで色合いもなかなかでした。懇切丁寧な解説に歌詞及び対訳と申し分ありません。Ernie Grahamを初めて聴いたのはいつだったんだろう。発売された1971年から1、2年後だったと思います。誰かのコンサートの帰りに「ブラックホーク」に立ち寄って時に聴いたような気がします。当然の如く入手には手間取りました。ニューミュージックマガジンの広告で新宿レコードが数枚だったか数十枚だったか販売する事を知り並んで購入する事が出来たのはさらに2、3年後でした。決して長蛇の列ではなかったと思います。ようやく耳から離れなかった「So Lonely」を存分に味わいました。柔らかな渋さとでもいうのでしょうか、その歌声と哀愁を帯びたメロディ。そして何よりも急ぎすぎた時の流れを戻してくれるが如くのゆったり感がありました。英国にありがちなストリングスによる過度のセンチメンタリズムを仰ぐ事なく素朴なロックバンドのサウンドが安心してErnie Grahamの唄に酔わせてくれました。当然に次作を期待したのですが、彼はClancyというバンドを結成してしまいました。1.2度「ブラックホーク」で聴いたのですがあまり印象にありません。今聴いたらきっと気に入る気がしますがCD化されておらず残念です。
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その後バンドを解散し1978年に1枚のシングル盤を発表し2ndアルバムへの期待を持たせてくれたのですが叶いませんでした。シングル盤「Romeo/Only Time Will Tell」はBrinsley Schwarzを思わせる良質なパワーポップで愛聴盤となっています。ちなみにこれは友人にいただいたもので何故かベルギー盤です。なおこの2曲は2002年にVinyl Japanから出されたCDで聴く事ができます。
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5、6年前でしたかパブロックのオムニバスCDを購入したら、なんとErnie Grahamの名が、しかも2曲。まったく偶然の出会いでした。単独名義で1976年制作の未発表作でした。Clancy解散直後と思われます。やや力み気味ですが1stと変わらぬ魅力的なメロディとサウンドは紛れもなくErnie Grahamでした。尚この49曲入り2枚組は素晴らしいパブロックオムニバスです。パブロックファンは是非に。今回の紙ジャケを購入しErnie Grahamの経歴を初めて詳しく知ることが出来ました。でも彼の参加したEire ApparentやHelp Yourselfを聴きたいとは思いません。50歳で逝ってしまったErnie Grahamは単独名義の作品にだけ彼の唄があるように思います。(2014.2)
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昨年5月知人に誘われ久し振りに尾瀬に行きました。2、30人の団体でした。元来団体行動は苦手なのですが気晴らしにでもなるかと参加したのです。鳩待峠から山の鼻までの平坦なコースで咲き始めたミズバショウ目的の日帰りでした。咲き始めのミズバショウを堪能する事が出来たのですが時間の制限や連なる人の列に混じって歩くのは辛いものでした。これまで5、6回は尾瀬に行っているのですが仕事の都合で土日がほとんどでした。当然人を見に行くようなものでした。今も年々入山者は増えていることでしょう。(入山制限なんて話も)尾瀬にあまり良い思い出はないのですが初めて行った今から丁度30年前の7月はとても静かでした。富士見峠から大清水に下山して尾瀬沼小屋に宿泊。夕暮れ時に沼のほとりでビール片手にDavid Wiffenの「Coast To Coast Fever」を聴きながら日が沈むのを待って宿へ。翌日は沼の廻りをのんびり散策して尾瀬ヶ原から山の鼻へ。ここではキャンプ。翌朝インスタントコーヒーをすすりながら朝食の準備を。新緑の木立の中でさえずる鳥達の声を聞かずに私は「Heron」をずっと聴いていたのでした。何故かそこからも小鳥のさえずりが聞けたのです。(2014.1)
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近年出されたトラッドをまったく聴いていませんので巷ではどなたのどういった唄が出されているのか分かりません。この事はトラッドに限らずですが。先日取り上げたFairportさえもあのタイトルでなかったら手を出さなかったかも知れません。唄は世につれ人につれ変わって当然です。特に追いかける必要の無い私はいつまでたっても過去の唄に惹かれてしまうのです。過去の唄の中で初めて出会う唄に感激したりもします。考えてみれば唄い手や演奏家も過去の唄や旋律を自己の解釈で表現しているのです。そこで堂々と。70年代の英国トラッドやフォークを知るのにとても便利なアルバムがあります。私が持っているのは80年に出された国内再発盤の2枚組です。その内容はアコースティックというカテゴリーで括られてはいるものの多種多様な31のアーティストが詰め込まれています。ちなみに永遠の名曲Ralph Mctellの「Street Of London」からTony Roseまで。CD化されているのかどうか分かりませんがアマゾンでは確認出来ませんでした。中古屋さんで見かけたら是非に。
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英國で一番好きなギタリストと言ったらRichard Thompson。このアルバムは1975年のライヴです。Fairportを離れた後、傑作アルバムを、名曲を量産した頃のもので当時の奥方LindaをメインヴォーカルにJohn KirkpatrickのアコそしFirport仲間のPeggとMattacks。最も見たかったメンバーでした。当時の代表曲に混じってMorris TuneやTogether Again(私にとってはBuck OwensというよりもGP)等も。当然夫婦ヴォーカル、ギター、アコも聴きどころですがPeggのベースがやたら印象に残りました。
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「“Babbacomebe"Lee」が出たのは1971年そしてこのライヴが2011年ですので40周年記念だったようです。それにしても驚きました。全くの再演なのです。Dave SwarbrickとDave Mattacksはいませんが。冒頭の語りから曲順、楽器のパートすべてが同じなのです。途中客の歓声が3、4箇所程入ってこれがライブだったと気付かされます。よくぞやってくれました。これは快挙です。奇跡の物語をオペラ仕立てにした当時のアルバムはSwarbrickがイニシアチブをとり特に後半部は彼の叫びとも思える歌声と時にすすり泣くようなフィドルで緊張の連続でした。LPはたいてい片面ずつしか聴いてなかったのですがこのアルバムは必ず両面を通して聴きました。5楽章で構成されていて曲名はありませんでした。私の持っていた国内盤には物語のブックレットが付いていて本を読むように聴いていたようです。さて奇跡のライブアルバムですがとても穏やかなのです。Chris Leslieの歌声はどこまでもたおやかでSimon NicolとDave Peggが優しく寄り添っています。ギターもマンドリンも決して尖る事無く柔らかく奏でられています。そして聴く前にメンバーを見て一番気にかかったのがフィドルのRic Sanders、彼はどう表現するのだろうか。後半の絞首刑前の夢見る部分(14.Dream Song)でのSwarbのフィドルは強烈でした。さすがに同じ旋律を辿る事はしていませんでした。彼らしく浮遊感のある柔らかい表現でした。ラストはPeggに先導されパワフルなGerry Cowayの太鼓に見送られて絞首台から降りていくのです。これはSimon Nicolの発案だったのでしょうか。緊張感から解き放たれて伸びのびと楽しく再演されたこのライヴアルバムは集中力、根気の薄れた私でも最後まで聴き通せる一枚です。
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11月という事で意識してSandy Dennyの「Late November」を聴いてみました。暗く厚い雲に覆われた今日の空のように憂鬱で物悲しい雰囲気の唄、自身の弾くピアノもRichard Tompsonのギターも重く沈んでいます。この曲だけでなくアルバム全体に漂っています。彼女は1978年31歳で亡くなりました。今も彼女が元気だったらどんな唄をなどとは思いません。この素晴らしい1枚だけでも私には十分なのです。少し和らいだ2ndの「It'll Take A Long Time」では“時間がかかる”と繰り返すSandy Denny。

「Anne Briggs」の1stがどうしても欲しくて上野の蓄晃堂で店員(バイト?)さんに注文をしたところ店員さんはトラッドにとても詳しい方で「それなら私が個人輸入で取り寄せてあげましょう。ただし船便なので2ヶ月程かかりますが1、500円位でいいですよ」と。何とも幸運でした。また「私のお薦めを一緒に2、3枚オーダーしましょうか」とも。是非にとお願いし到着を待ちました。この方はもしかして国内のパイプの草分け的存在である方だったのかもしれません。こうして漸く手に入れた「Anne Briggs」の歌声と犬ジャケに感激しました。同時に「The Irish Country Four」と「Oldham Edge」に出会う事が出来ました。北アイルランド出身のThe Irish Country Fourは私が聴いた初めてのIrishだったようです。パイプ、フルート、ホイッスル、ギターの編成で軽快なジグやリールを奏でる一方でフルートソロやパイプでのエアー。青年達と紹介されていますが円熟味を帯びたアカペラは若さをまったく感じさせません。キャロランの名曲“Blind Mary”や後にMaddy Prior&June Taborが「Silly Sisters」の冒頭に取り上げた“Doffin’ Mistress”等も収められています。
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「Owdham Edge」これも今ではほとんど見かけないレコードでランカシャーの唄と詩を集めたアルバムです。この中にはOldham Tinkersの曲が数曲収められています。他に私が知っている唄い手はBernard Wrigleyのみでした。
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「Oldham Edge」とどちらを先に聴いたのか分かりませんが、とにかく好きになりました。Oldham Tinkersは“ブラックホーク99枚”にも選ばれた「For Old Time’s Sake」がよく知られているようですが私が繰り返し聴いたのはこちらです(1st?)なんとも肩の力の抜けた歌いぶり、伴奏とはこういうものだとばかりの素朴なギター・マンドリン・ホイッスル。60年代の米国のモダンフォークのルーツとも思わせるメロディが郷愁をかきたてます。レコードも劣化し期待していたのですが悲しい事にCD化に当たって他のアルバムに振り分けられてしまいました。
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少し涼しくなって久し振りに聴いてみました。きっかけはRod Stewart の「Every Picture Tells A Story」で、暑い夏の夕方の晩酌のお供、ジャケを開き眼鏡をずらして細かな表記の参加メンバー紹介を眺めていたら、なんとLindisfarneのマンドリンプレイヤーの名前を忘れてしまったと記されていました。冷たいな~。ヒットした「Maggie May」のエンディングや、ずばり「Mandlin Wind」での彼のプレイがあのアルバムを傑作に仕立てたのですから。私は覚えています。Ray Jacksonさん。マンドリンにハーモニカが盛り上げるこのアルバムは本当に楽しさが満載です。友人が会場で踊りまくったという日本公演は残念ながら行く事ができませんでしたが。
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「名前のない馬」の大ヒットで登場した America がとても好きで少し後にデビューしたこのグループはもっと好きでした。音楽的には両者のサウンドはほぼ同じなのですがAmericaは大成功を収め、こちらは確かもう1枚?アルバムを残して消えてしまいました。当時から軟弱系、いや繊細なサウンドが好きだったのです。当時の流行りである生ギターにCS&N風なコーラス。少し陰りのあるメロディ。本作のプロデュースはI.Matthewsでしたね。これもラストのタイトル曲を繰り返し聴きながらオーシャンホワイトという安酒で酔っていました。